あのとき、あの人と、ただ“感じた”だけの時間
学生のころ。
夜の帰り道に、なんでもない話をして笑い合ったこと。
好きな映画や本について、目を輝かせて語り合ったこと。
“意味”や“目的”なんてなくて、ただ「わかる」とうなずき合える時間が、
どこかで、ふっと消えてしまうのが大人という時間の不思議です。
仕事に、人間関係に、日々の忙しさに追われながら──
誰かと“深いところ”でつながる会話や、美しいものを見て共鳴する瞬間は、
後回しにされていく。
でも本当は、そういう時間こそが、
私たちの感性を柔らかくほぐし、日常に彩りを戻してくれるのかもしれません。
今回は、大切な人と“美しさ”を共有するための習慣を5つ、ご紹介します。
1|「いいな」と思った瞬間を、その場で言葉にする
誰かと感性を分かち合いたいと思ったら、まずは自分の感性を、丁寧に言葉にしてみることから。
たとえば──
「この道の匂い、雨が降ったあとの土みたい」
「この絵、音が聴こえてくるみたい」
そんなふうに、少し照れ臭くても、
自分だけの感じ方を、あえて声に出してみましょう。
たとえそれが正確な説明でなくても大丈夫。
“感じた”という事実が、すでにあなたの感性そのものです。
そのひと言が、誰かの感性の扉をそっと開き、「あ、わかる」と共鳴する瞬間を生み出してくれます。
2|スマホを手放し、景色を“一緒に”見てみる
何気ない風景も、“誰かと一緒に見る”ことで、意味が変わってくることがあります。
通り過ぎるだけだった公園の木々が、
「この枝ぶり、絵画みたい」と言われて初めて目に留まる。
そんな経験、ありませんか?
スマホをしまって、目の前の風景に意識を向けてみる。
たとえば、カフェの窓際で流れる人の気配や、旅先の空の色。
同じものを一緒に眺め、同じ時間を静かに過ごすだけでも、感性は自然と交わっていきます。
会話がなくても成立する“共有の時間”こそ、感性の親密さを育ててくれるものなのかもしれません。
3|「なぜそれが好きなのか」を話してみる
好きなものを語るとき、私たちは自然と内面を開いています。
たとえば、「この映画が好き」と言ったあとに、
「どうしてそう思ったの?」と問いかけられると、自分の価値観や感情の深いところに触れることになります。
「主人公の迷いが、自分と重なった」
「色使いに、子どもの頃の記憶がよみがえった」
そんなふうに“なぜ好きなのか”を語り合うことで、感性の深度が共有されていきます。
同じ映画を観ても、同じ音楽を聴いても、感じることは人それぞれ。
違う感じ方を尊重し合える関係は、きっと深くてやさしい時間を生み出してくれます。
4|感性の“交差点”になりそうな場所へ行く
感性は、触れる環境によって大きく変わります。
だからこそ、誰かと一緒に感性を育てるには、刺激のある場所に足を運ぶのも一つの方法です。
アートギャラリー、老舗の喫茶店、季節の草花が咲く庭園。
そこには、ただ眺めるだけではなく、“感じること”を促してくれる空気があります。
「この空間、あなたが好きそうだなと思って」
そう言って誰かを誘う時間は、すでに感性を交わす準備のひととき。
ふたりで歩く展示室の静けさや、自然の中で交わすひと言ひと言が、日常に余白をつくってくれるはずです。
5|“答えのない話”を、してみる
私たちはつい、会話に「答え」や「結論」を求めてしまいます。
でも、ときには“意味があるかどうか”より、“感じていること”そのものを話してみるのもいい。
「最近、なんとなく空がきれいに見える」
「この前見た夢が、やけに印象に残っていて」
そんな話題を持ちかけると、相手も“感じているけど言葉にしていなかったこと”を話してくれるかもしれません。
感性を交わす時間とは、結論のない会話を、安心して差し出せる関係から生まれるもの。
「ただ聞いてくれてありがとう」と言える関係は、大人の美しさだと思うのです。
感性を交わす時間は、人生にそっと差し込まれる光
誰かと“美しさ”を共有する時間は、日常の中のささやかなひとときに、静かに存在しています。
それは、同じ景色を見つめた瞬間だったり、
「これ、あなたが好きそう」と手渡された小さな贈り物だったり。
派手な出来事ではなくても、感性がふと交差するその瞬間が、
私たちの心をやわらかくほぐしてくれるのです。
どうか時々、誰かと感性を交える時間をつくってみてください。
それはきっと、あなた自身の感性も、静かに育ててくれるはず──
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉