──”意味”ではなく、“価値”を感じながら生きていくということ
はじめに
2020年に公開されたディズニー&ピクサーの映画『ソウルフル・ワールド』。
当初は劇場公開が予定されていましたが、コロナウイルスの影響により急遽中止となり、とても名作なのに、影の薄くなってしまった作品です。
でも、それがとてももったいないと思うのです。
この映画は、ディズニー映画の中でも圧倒的に好きな1本。
筆者は、ディズニー、ピクサー、実写含め数多くの作品を観てきましたが、私にとっては歴代で一番心に残っているディズニー映画です。
この作品が描くのは、“生きる意味”ではなく、“生きる価値”。
社会に出て、現実の波に揉まれながら日々を生きていると、ふと立ち止まってしまう瞬間があると思います。
いい意味でも悪い意味でも、「大人」になってしまった私たち。
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自分の「生きがい」って、何だろう?
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挫折してしまった過去に、まだ心がとらわれている
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好きなことを仕事にしているのに、どこか物足りない
自宅と会社を行き来して、疲れて寝てしまう....
そんな毎日でいいのかな....
そうした問いに、そっと寄り添ってくれる映画です。
そして、きっとこうも語りかけてくれるはずです。
「あなたは、もうすでに“人生”を生きている。」
今回は、この映画『ソウルフル・ワールド』から、人生をもう一度見つめ直すヒントを紹介したいと思います。
好きだからやる、それでいい
主人公・ジョーは中学校の音楽教師。
そんな彼のクラスに、12歳の少女・コニーがいます。
ある日、コニーは「音楽なんて意味ないし、楽器なんて時間のムダ」と言い出し、やめようとします。
彼女の言葉の奥には、おそらくこんな思いがあるのでしょう。
「どうせプロになれるわけじゃないし、やったって意味ないじゃん。」
けれど、最後に「せっかくだから1フレーズだけ聞いてほしい」とトロンボーンを吹き始める彼女。
その音色に心を動かされたジョー(※このとき彼の中身は“22番”というキャラクター)は、こう言います。
「ほんとに、それが好きなんだね!」
するとコニーは、「そうなの!やっぱり続けた方がいいよね!」と満面の笑みで走り去っていきます。
この小さなやりとりに込められたメッセージ。
それは、未来の成果や、意味、効率なんて気にしないでいい。
「好きだからやる」それだけで、充分なんだということです。
私たち大人は、何かを始めたり、続けたりするときに、ついこんなことを考えてしまいます。
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役に立つのかな?
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意味あるの?
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お金になるの?
でも、本当はもっとシンプルでいい。
心が動くから、やる。それでいい。
“好き”を信じることが、私たちの感性を守ってくれるのかもしれません。
ゾーン状態が崩れると、“人生の迷子”になる
映画の中には、“ゾーン”と呼ばれる不思議な空間が登場します。
それは、人が何かに没頭しているときに魂が訪れる場所。
スポーツ選手、俳優、プログラマー、ミュージシャン。
集中の頂点で、精神と肉体が分離するようなあの瞬間。
そんな“ゾーンの魂”が浮かぶ世界。
でも、そのゾーンにも落とし穴がありました。
そこに長くとどまり、執着しすぎると、やがて“迷子のソウル”になってしまうのです。
「喜びが強迫観念に変わると、人生から切り離されて迷子になる」
ムーンウィンドのこの言葉には、胸が締めつけられました。
というのも、私自身がそのような経験をしたことがあるからです。
大学4年の冬から修士1年の春にかけて、デザインに没頭していた頃。
誰よりも優秀でなければ、デザイナーにならなきゃ、
という焦りに駆られて、寝食を忘れて、人と関わらずに制作に明け暮れていました。
でも、ある日──布団から起きられなくなってしまったのです。
何も食べてないのに吐き気がする、微熱が続く。
心も身体も動かない。
後から気づきましたが、「うつ状態の手前」でした。
好きだったはずのものが、いつの間にか自分を苦しめていた。
だからこそ、この映画のシーンに深く共感しました。
何かに夢中になるのは素晴らしいこと。
でも、自分を追い詰めるまで頑張らなくていいんです。
空を見るのがきらめきかも、歩くことかな
「生まれる前の世界」で長いあいだ“生きる目的”を見つけられずにいた魂、22番。
あるトラブルから、現実の世界に落ち、主人公ジョーの身体の中に入ってしまいます。
彼女は初めて「現実の世界」を体験し、こうした瞬間に心を揺さぶられます。
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ピザを口にしたときの温かさと味
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空から落ちてくる葉っぱの静かな舞い
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排水溝から吹き出す風のやさしさ
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ストリートミュージシャンの歌声
22番は、それまで“意味のあること”だけを探してきました。
でも、実際の世界で出会ったのは、どれも意味ではなく、感情が揺れるような出来事ばかり。
「空を見るのがきらめきかも。歩くことかな」
そんな彼女のつぶやきは、私たちが忘れてしまいがちな“日常の輝き”を思い出させてくれます。
いつの間にか、目標・キャリア・お金・成果
──そうした“わかりやすい指標”にしばられて、大切なものを見落としていないでしょうか。
何気ない今こそが、人生そのもの。
ささやかな体験こそが、あなたの人生の価値をつくっているのかもしれません。
私たちは、今この瞬間、すでに幸せかもしれない
映画の終盤。ジョーはついに夢だったステージに立ち、プロのミュージシャン・ドロシアと共演します。
観客の歓声を受け、大成功に終わったその夜。
ジョーはこうつぶやきます。
「もっと違う気持ちになると思ってた」
そんな彼に、ドロシアはある“魚の話”を語ります。
「若い魚が、年老いた魚に聞いたの。“僕は海を探してるんです”
年老いた魚は答えた。“ここが海だよ”
でも若い魚は言った。“ここは水でしょ。僕が欲しいのは、海なんだ”」
この話が示すのは、「幸せ」とは、すでに今ここにあるのかもしれないということ。
目の前の環境を自分がどう捉えているかで、自分が幸せかどうかが決まる。
すでに海にいるのに、ここが海ではないと思っている。
家族、友人、働けること、食べられること、話せること。
どれも当たり前ではなく、日常は、あなたをすでに包んでいる「海」なのです。
まとめ:人生に“意味”はいらない
『ソウルフル・ワールド』は、私たちにこう問いかけてきます。
「本当に、それに“意味”が必要?」
夢を叶えた人も、叶えられなかった人も。
大切なのは、自分の人生に“誇り”と“実感”を持って生きること。
「やりたいこと」や「目標」だけが人生じゃない。
今この瞬間、あなたが感じている風や音やぬくもりこそが、人生を彩っているのです。
生きることに疲れたとき、進む理由を見失いそうなとき、
この映画は、そっと肩を叩いてくれるでしょう。
なお、現在「ソウルフル・ワールド」はディズニープラスでしか観られないため、無料視聴はできません。
それでも、この映画は観る価値があります。
一月だけディズニープラスに契約してまで観る価値はあります。
もしお時間があれば、見てみてください....
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉