・はじめに
当ブランド「SOWN」は、商品企画からデザイン、販売までを私ひとりで行っています。
個人でブランドを立ち上げると、すべての工程が“自分ごと”になります。
商品を「作る人」と「売る人」が分業されている企業とは違い、
個人ブランドでは、そのどちらも、自分の言葉で、お客様に届けなければなりません。
今日は、そんな「個人で販売してみて、あらためて気づいたこと」について、少し書いてみたいと思います。
・営業の人が機能価値を求める理由
私は新卒からずっと、会社で通信機器や時計のデザインに関わってきました。
その中で何度となく耳にしたのが、「もっとわかりやすい“機能”を加えてほしい」という言葉。
例えば、
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「この素材は○○製のハイグレードなものです」
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「このパーツには△△加工が施されています」
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「スポーティさを出すために、カーボンを使用しました」
こういった“目に見える価値”を設計に求められることが多々ありました。
けれど正直に言うと、私はそれだけでは何かが物足りないと感じてしまうことがあります。
たとえば、ヴァンクリーフ&アーペルのアルハンブラのように、
「四葉のクローバーには幸福を呼ぶ力がある」という物語があることで、
ジュエリーはただの装飾品ではなく、“お守り”のような存在になります。
つまり、“感性価値”── ものが放つイメージやストーリーが、
人の心に残る理由になるのではないかと、ずっと感じてきました。
ですが、いざ自分でイベントに出展して、目の前でお客様に商品を説明する立場になると、
“機能的な価値”の方が伝えやすい、という現実に直面しました。
「この素材は○○なんですよ」と伝えると、すっと納得してくださる。
「この造形は音からインスピレーションを得て…」と話しても、
その世界観を数秒で理解してもらうのは、なかなか難しい。
このとき、はじめて、企業で営業の方が「機能価値」にこだわる理由が腑に落ちた気がしました。
“目に見える価値”は、やっぱり強い。そう実感しました。
・それでも感性価値は大事
それでも私は、感性価値のあるものが好きです。
ジュエリーやアートが放つ、言葉にならない空気や雰囲気。
「なんとなく惹かれる」という、その“なんとなく”の中にこそ、
大事なことが詰まっている気がしています。
だからこそ、自分自身が表現したいもの、心から美しいと思えるものを形にする場として、
SOWNというブランドを立ち上げました。
「感性の中にある“かたちにならないもの”を、かたちにする」
それが、自分にとっての創作活動の軸であり、SOWNの根底にある思想です。
もちろん、それは売りやすいとは限りません。
誰にでもすぐ伝わるわけでもありません。
それでも、「これ、好きだな」と思ってくださる誰かが、
ひとりでもいたら、続ける意味があると思っています。
・両方の重要性がわかった
個人で販売を経験して、私は“両方の価値”の大切さを、ようやく実感しました。
機能的な価値は、「伝えるための入り口」。
感性的な価値は、「好きになってもらうための奥行き」。
どちらか片方だけでは届かない。
むしろ、両方があってこそ、商品の魅力は本当の意味で相手に伝わるのだと思います。
企業の中で働くデザイナーとしての視点と、
個人でブランドを営むクリエイターとしての視点。
その両方を経験したからこそ、見える景色があります。
この実感は、これからどんな形で創作していくにしても、大きな支えになってくれそうです。
・まとめ
作ることと、売ること。
分けて考えられる時代から、ひとつに繋がる時代へ。
個人で販売をするという行為は、自分の表現を他者の世界に差し出すということ。
その中で得られる喜びも、気づきも、痛みも、すべてが自分の一部になっていきます。
機能価値と感性価値。
「見えること」と「感じること」。
どちらかに偏らず、どちらも丁寧に扱っていきたい。
SOWNを通して、これからも少しずつ、そんな“両側”をかたちにしていけたらと思っています。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉