はじめに
腕時計とジュエリー。
どちらも身に着ける“小さな道具”でありながら、その市場を見てみると、ある傾向に気づきます。
それは──
「時計は男性のもの」
「ジュエリーは女性のもの」
というイメージです。
筆者自身、本業では腕時計のデザインに携わりながら、個人ではジュエリーのデザインも手がけています。
この両方に関わっているからこそ、不思議に思うのです。
なぜ、これほどまでに“性別”によって求められ方が違うのか?
今回は、そんな素朴な疑問をひもといてみたいと思います。
実際の数字を見てみると
統計的に見ても、やはりその傾向は明らかです。
たとえば、日本や欧米の高級腕時計市場では、
男性が全体の60〜75%を占めると言われています。
一方で、ジュエリー市場は女性が約70〜80%。
つまり、ほとんど「反転した構造」なのです。
もちろん、近年はユニセックスな商品も増えていますが、
市場規模としてはまだまだ「時計=男性」「ジュエリー=女性」の構図が根強く残っています。
腕時計に込められてきた“男性的価値観”
時計はもともと、軍用や航海など、「時間を正確に知る」ための機能道具として進化してきました。
そして20世紀以降、機械式時計が一般化すると、その内部構造や仕上げ技術、素材の選定など、「機能性」と「技術力」へのこだわりがブランド価値になっていきます。
ロレックス、オメガ、タグ・ホイヤー……
いずれも“タフさ”や“精密さ”を軸にしたブランディングを築いてきました。
こうした背景の中で、時計は**「機能美を愛する男性の道具」**というイメージを自然と形成していったのです。
ジュエリーに込められてきた“女性的価値観”
一方で、ジュエリーは**“装飾”や“象徴”としての役割**が強く、身につける人の感性や個性を映す存在です。
古代の王族が宝石をまとう文化から始まり、やがてファッションと結びつくことで、より**“美しさ”や“自己表現”**の手段として広がっていきました。
ハイブランドがこぞって女性向けジュエリーを展開してきた背景には、「美意識の高さ」や「感受性の豊かさ」など、女性的価値観に訴える要素があったのだと思います。
「きれい」「かわいい」「ときめく」といった感覚の言語が、ジュエリーの世界観とはとても親和性が高いのです。
文化やライフステージも関係している?
また、文化的・社会的な視点で見ると、こうした性別による傾向にはライフステージの違いも関わっています。
たとえば、
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男性は社会に出たタイミングで「ステータスとしての時計」を購入する傾向があり、
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女性は結婚や出産、自分へのご褒美として「記念のジュエリー」を選ぶ機会が多い
というのは、どこか“通過儀礼”的な意味合いがあります。
さらに、マーケティングの影響も大きく、
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男性誌では時計が「ビジネスシーンの格上げアイテム」として、
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女性誌ではジュエリーが「ときめき」や「幸福感」と共に紹介される
そんなメディアの伝え方ひとつにも、私たちの無意識は大きく影響を受けているのかもしれません。
まとめ
「時計は男性のもの」「ジュエリーは女性のもの」
そうしたイメージには、歴史的な背景や、文化的な刷り込み、そして私たち自身のライフスタイルの中で培われた価値観が関係しています。
でも本来、時計もジュエリーも、“装い”という意味では同じく「自分を表すもの」です。
性別にとらわれず、自分の感性で選ぶ時代が、少しずつやってきているように思います。
機械の精度に惹かれて時計を選ぶ女性もいれば、曲線の美しさに心惹かれてジュエリーを手に取る男性もいる。
そうやって、選び方の幅が自由になっていくのは、とても素敵なことだと思います。
SOWNも、そんな“感性で選ぶものづくり”を、これからも大切にしていきたいと考えています。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉