■ “かっこいい”って、誰の感性?
デザインの仕事をしていると、いつも悩まされることがあります。
それは、「かっこいい」という感覚が、文化や地域によってまったく違うということ。
腕時計のデザインをしていると、私自身の感覚では「これはちょっと違うな」と思うものが、
別の国では非常に人気だったりします。
それは、単にデザインの好みではなく、その土地のカルチャーや経済状況、生活リズム、価値観が違うから。
つまり、“かっこいい”のベクトルが異なるのです。
■ ティンバーランドが象徴する、カルチャーの差
たとえば、ABCマートに並ぶティンバーランドのブーツ。
東京では「重たい」「コーデに合わせづらい」と感じる人が多い一方で、
地元に帰ると、意外と多くの人が履いているのを見かけます。
都市と地方。
流行を敏感に追うか、個性を強く主張するか。
それぞれの「かっこよさ」は、その人が生きている場所の空気に影響されています。
東京では“洗練”が評価され、地方では“存在感”が評価される。
どちらも間違いではなく、ただ向いている方向(ベクトル)が違うだけ。
■ デザインにおける難しさ
デザイナーとして仕事をしていると、
「自分がかっこいいと思うものを作る」のは比較的やりやすい。
でも、「特定の文化圏の人がかっこいいと思うものを作る」となると、とたんに難易度が上がります。
なぜなら、自分の感性の中に**“共感の土壌”がない**からです。
心の底から「これ、いいな」と思えないものを、説得力を持って形にするのは、想像以上に難しい。
■ “かっこいい”の多様性を受け入れる
世界には、数えきれないほどの「かっこよさ」が存在します。
クール、シック、エッジー、ワイルド、ストリート、エレガント……。
それぞれが異なる文化の中で磨かれ、独自の文脈を持っています。
だから本来、“かっこいい”に優劣はありません。
ただ、それぞれが異なるベクトルの上に存在しているだけ。
■ 感性を広げるということ
自分が「かっこいい」と思う感覚を信じることは大事です。
でも同時に、他の文化のベクトルを理解しようとすることも、
デザインの幅を広げてくれる大切な学びです。
異なる価値観を知ることで、
自分の“かっこいい”の軸も、少しずつ豊かに、柔らかく変化していく。
“かっこいい”とは、感性の言語。
そしてその言語は、時代や場所、人によって、無限に変化していく。
その変化を感じ取れる人こそが、本当の意味で“かっこいい”のかもしれません。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉