現在、東京都庭園美術館で開催されている
「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル」展に行ってきました。
私はもともとヴァンクリが好きなのですが、正直にいえば、
ブランドのイメージとしては “キラキラしたハイジュエリー” という印象が強く、
すごく大雑把にいうと「港区女子が付けていそう」という先入観すらありました。
でも、実際の展示を見て、その印象は完全に覆りました。
そこにあったのは、ただの“かわいいジュエリー”ではなく、
とてつもない技術の蓄積が形になった、美の結晶。
ヴァン クリーフ&アーペルは、技術で美しさを支えるブランドだった。
それを強烈に実感した展覧会でした。
■ ジップネックレス——貴金属で“ファスナー”を成立させる狂気の発想
展示の中でも特に心を奪われたのは、
ファスナーをそのままジュエリーにした「ジップネックレス」。
ファスナーと聞くと、日常的で普通のものを想像します。でも、
それを ゴールドやプラチナといった柔らかい貴金属で実現させる のは、想像以上に難しい。
実際に開いたり閉じたりでき、
ネックレスからブレスレットへ姿を変える構造になっているのですが、
「これを貴金属でやろうと思った人、天才じゃないか…?」
と、しばらく見つめてしまうほどの衝撃でした。
ジュエリーの世界は繊細で、少しの誤差も許されません。
その中で可動式の構造を成立させるのは、
職人の緻密さとブランドの執念の賜物。
“美しいもの”は、こういう技術の裏側があって初めて生まれるのだと、改めて感じました。
■ ミステリーセット——石が浮いて見える、究極のセット技術
もうひとつ圧巻だったのは、ヴァン クリーフの代名詞的技術である
ミステリーセット(Mystery Set)。
石に細い溝を掘り、
そこに貴金属の“レール”を通して固定するという、
職人技の極みともいえる手法です。
この技術のすごさは、
爪や留め具が表に出ないため、石だけがそこに“面”として存在すること。
ルビー、サファイア、エメラルドなどの色石が、まるで液体のように連続して並び、
光が流れるように動く。
「どうやって作ってるの…?」
と、理解が追いつかないほどに美しい。
単に“石を敷き詰める”のではなく、
石一つひとつに溝を彫り、角度を合わせ、色を合わせ、光の通り道を計算する。
その緻密な作業の積み重ねが、ヴァンクリ特有の“静かな豪華さ”をつくっているのだと思いました。
■ 技術の上に成り立つ美しさは、永遠性を持つ
展示を見ながらずっと感じていたのは、
ヴァンクリのジュエリーは、単に“時代のトレンド”ではなく、
技術によって永遠性を獲得したデザインだということ。
ジップネックレスもミステリーセットも、
美しいだけでなく、技術的探求や挑戦の精神が背景にあるからこそ、
何十年経ってもその価値が色褪せない。
もちろん、ジュエリーとしての華やかさはあります。
けれどそれ以上に、
「人間の手でここまで美しいものを作れるのか」と感動する展示でした。
私も腕時計のデザインに携わっていますが、
“美しさという表面”の後ろにどれだけの工程や試行錯誤があるかを知っているからこそ、
ヴァンクリの作品たちの凄みを、より深く感じられました。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉