「使いやすさ」と「美しさ」は、対立しない
デザインの世界には、
機能美と感性美という二つの概念があります。
機能美とは、使いやすさや操作のしやすさといった、
ユーザーに寄り添う“合理的な美”。
感性美とは、形状や素材、印象の中にある“情緒的な美”。
この二つは一見、別のベクトルにあるように見えて、
本来は切り離して考えるものではありません。
優れたデザインほど、機能と感性が自然に重なり合い、
「使いやすいから美しい」と感じさせてくれるのです。
ダイソンの扇風機に見る“機能から生まれる美”
たとえば、ダイソンの羽根のない扇風機。
安全性や掃除のしやすさといった“機能的な課題”を解決する中で、
その構造自体が新しい“美”を生み出しました。
空洞のあるミニマルな形は、
単なる見た目のためではなく、
「子どもが指を入れない」「ほこりが溜まりにくい」という
“人の生活を守るデザイン”の結果として生まれた造形です。
機能美が、感性美に変わる瞬間。
そこに、デザインの本質がある気がします。
腕時計に宿る、機能と感性のせめぎ合い
腕時計のデザインは、まさにこの二つの要素の交差点にあります。
「時刻を知る」という機能を備えながら、
「身につける美しさ」も求められる。
機能を追求しすぎると無機質になり、
感性を重視しすぎると実用性が損なわれる。
だからこそ、腕時計のデザインは繊細なバランスの上に成り立っています。
たとえば、文字盤の針一本の太さ、
ボタンの押し心地、
光を反射する角度。
それらはすべて、“時間を感じる体験”を美しくするための設計です。
感性は、機能の中で生きる
ジュエリーのように「機能のない美しさ」もあれば、
腕時計のように「機能に支えられた美しさ」もある。
どちらにも共通しているのは、
“人が使う”という前提の中で美しさが完成するということ。
つまり、美は形そのものに宿るのではなく、
それを使う人の所作や感情、
そして“心の余白”の中に宿るのかもしれません。
美しさは、思いやりから始まる
最終的に、機能美も感性美も根っこは同じだと思います。
「人にとって心地よくあること」。
手に取る人の気持ちを想像し、
その人の一日を少しでも豊かにするために形を考える。
それが、真の“デザイン”であり、
機能美と感性美の交わるところにある、
思いやりのかたちなのだと思います。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉