― ストーリーが宿るものに、人は惹かれる ―
■ はじめに
「感性価値」という言葉を聞いたことはありますか?
あまり耳馴染みのない言葉かもしれませんが、私たちが日々選び、手に取り、使っているモノの中には、機能性とは別の“感覚に訴えかける価値”が多く存在しています。
それは、ただ便利だから、性能が良いからという理由ではなく、「なんか好き」「なんとなく惹かれる」「触っていたくなる」といった、言語化が難しいけれど確かに感じる価値です。
今回はこの「感性価値」について、デザイナーとしての視点から考えてみたいと思います。
■ 感性価値とは
感性価値は、一般的に“機能価値”とは対になる概念として語られます。
例えば、スマートフォンで例えるなら:
機能価値:処理速度、バッテリー持ち、カメラ性能、防水性能など
感性価値:触れたときの質感、手に持ったときのフィット感、UIのなめらかさ、パッケージの美しさ、ブランドから感じる世界観
iPhoneを選ぶ人が全員、カメラの画素数やCPUの性能を詳細に調べているわけではありませんよね。
多くの場合、私たちは“なんとなく”その製品の雰囲気や、Appleというブランドの持つ思想、美しさに惹かれて選んでいるのではないでしょうか。
この「なんとなく好き」が感性価値の根幹です。
そしてそれは、決して曖昧な価値ではなく、モノに深みと持続力を与える非常に重要な要素です。
■ 筆者的には
デザイナーとして数年活動してきた中で、私は「感性価値」はもっと深いものだと感じています。
今の時代、機能が優れていることはもはや“前提条件”です。
また、見た目のデザインが良いことも当然求められるため、それだけでは選ばれる理由にはなりません。
私が考える感性価値の本質は、世界観やストーリーの存在です。
例えば、ある香水や化粧品を手に取るとき、成分や効果以上に、そのブランドの世界観やメッセージに心が動かされることはありませんか?
「このブランドの、あのパッケージデザインが好き」
「この商品が置いてある空間が好き」
「この世界観の中に自分も身を置きたい」
こうした感情が芽生えるとき、そこに感性価値が宿っているのだと思います。
■ SOWNが大切にしていること
私が運営しているジュエリーブランド「SOWN(サウン)」も、まさにこの感性価値を核に置いています。
SOWNでは、“音をカタチにする”という独自のアプローチを通じて、デザインの背後にストーリーを持たせています。
各アイテムに込められているのは、音そのものの波形であり、それぞれに想いや情景があります。
単なる素材の美しさや形のユニークさではなく、「どうしてこの形になったのか」「どんな意味があるのか」といった背景の物語があることで、ジュエリーに“共感”という新しい価値が宿るのです。
その結果、プロダクトとしての「ジュエリー」以上の、個人的で感覚的な価値を提供できていると感じています。
■ AI時代のデザインと感性
私自身、日々AIの技術を活用しています。
プロダクト開発、リサーチ、アイデアのブラッシュアップなど、あらゆるフェーズでAIは非常に有益なパートナーになりつつあります。
特に効率やスピードを重視する場面では、AIの力を借りることで格段に進化した部分も多いです。
ただし、“感性価値”という点においては、まだまだAIは発展途上です。
AIは論理的な最適化には長けていても、「なぜだか惹かれる」「説明できないけど好き」といった、曖昧で情緒的な価値の創出は難しいのが現状です。
SOWNの例で言えば、「音とジュエリーを組み合わせる」という発想は、一見関連性のない2つの概念を感覚で結びつけたもの。
こういった“意味を紡ぎ直す行為”は、まだ人間の領域だと感じています。
■ 今、美しいと感じることを信じる
美しさとは、形だけの問題ではなく、その背後にある文脈や物語を含んだものです。
そして、感性価値はまさに“美しさを感じる力”そのものだと思います。
私たちは、もっと今この瞬間に、「自分の感覚が心地よいかどうか」を大切にしてよいのだと思います。
価格やスペック、機能や効率。
そうした価値がすぐに比較される時代だからこそ、自分が感じる“なんとなくの好き”をもっと信じることが必要です。
■ まとめ
感性価値とは、機能や数値では語れない「なんとなく好き」を支える価値。
美しさやストーリー、世界観といった文脈が、その本質。
感性価値は、プロダクトと人との“感情的なつながり”をつくり出す。
AIが発展する今だからこそ、人間の感覚がより貴重な武器になる。
「なんか好き」を信じて選び、作ることが、美しさに触れる第一歩だと思います。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉