── 手触り・素材・温度が記憶に与える影響
私たちは、世界を“見る”よりも前に、“触れる”ことで理解しています。
赤ちゃんが最初に覚えるのは、言葉でも、景色でもなく、肌に触れる温度や、抱っこされたときの重さ、布のやわらかさ。
じつは大人になってからも、この“触覚の記憶”は生き続けていて、日々の選択や好みにまで深く影響しています。
今日は、普段あまり語られない「触覚の記憶」という感性の話です。
1|“手触り”は、もっとも古い記憶装置
視覚や聴覚は後天的に鍛えられる部分が多いのに対し、触覚は圧倒的に早く育ちます。
だからこそ、人は「触ったときの感触」で、モノや体験の印象を決めやすいと言われています。
たとえば、同じ白いTシャツでも、
・柔らかい生地は“優しさ”
・ハリのある生地は“誠実さ”
・サラサラした生地は“軽快さ”
と、無意識に人格的なイメージを重ねてしまう。
触覚は、視覚よりも“感情”へ直通しているからです。
2|素材は、そのまま記憶の「風景」になる
布、紙、木、金属。
触れた素材の種類によって、私たちの脳にはまったく違う風景が立ち上がります。
・ザラッとした紙 → 子どもの頃のスケッチブック
・冷たい金属 → 朝のドアノブに触れた瞬間の空気
・あたたかい革 → 長く使ってきた財布への愛着
・つるりとしたガラス → 夏の麦茶の記憶
触れた素材が、そのまま“過去の空気”を呼び戻す。
だからこそ、作り手が素材を選ぶという行為は、
「その人の記憶にどんな風景を連れてくるか」を決める作業でもあるのです。
これはジュエリーに限らず、家具、服、日用品すべてに言えること。
感性が豊かな人ほど、素材を“風景”として受け取っています。
3|温度は、もっとも早く“好き嫌い”を決める
温かい・冷たい。
この温度感は、触覚の中でも特に情緒に影響します。
たとえば、
・金属の“ひやり”は、凛とした緊張感
・陶器の“ほっ”とする温度は、安心感
・コットンの“ぬくもり”は、優しさ
として私たちは受け取る。
好きな人の手が温かくて安心したり、
冬に触れたコーヒーカップが気持ちよかったり。
温度はとても原始的な感情を揺らす感覚です。
だからこそ、身につけるものの温度は、そのまま気持ちの揺れに直結します。
“触れた瞬間に感じたこと”こそ、人の感性の芯を作っていくのです。
人は、触れた順番で世界を好きになる
触覚は、もっとも静かで、それでいてもっとも深い感覚。
私たちは日々、何かに触れながら「この世界は心地いいか」を確かめています。
触れた順番が、世界の記憶をつくる。
そしてその記憶が、今日の私たちの選択や美意識を形づくっている。
モノを選ぶとき、服を着るとき、誰かに触れるとき。
その「手触り」こそが、あなたらしさのいちばん近くにある感覚なのだと思います。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉