── 「これがいい」と思ったものを否定される怖さ
仕事で何かを提案するとき、
基本的には、
客観的に考えることが大切です。
市場性があるのか。
ユーザーに求められているのか。
会社としてやる意味があるのか。
ブランドに合っているのか。
そういったことを整理して、
「だから、これをやりましょう」
と提案する。
仕事ですから、
当然ですよね。
でも、
どうしても主観が入ってしまうことがあります。
「自分が好き」が入った瞬間、怖くなる
例えば、
たまたま自転車が好きな人が、
自転車関連のプロジェクトを担当する。
当然、
仕事として客観的に考える。
市場も調べる。
ユーザーも考える。
競合も見る。
でも、
その人の中には、
「自分は自転車が好き」
という気持ちがあります。
だから、
少しくらいは、
「自分だったらこれが欲しい」
という感覚が入ってくる。
それ自体は、
悪いことではありません。
むしろ、
その人だからこそ出せる提案になる可能性もあります。
でも、
怖い。
否定されるのは「提案」なのか「自分」なのか
私自身、
腕時計のデザインをしていて、
これを強く感じることがあります。
企画内容が、
自分の好きなテイストだったとき。
「こういう時計、かっこいいな」
「自分だったらこれを着けたいな」
という気持ちが、
どうしても入ります。
もちろん、
デザイナーとして客観的に考えます。
でも、
100%客観というわけにはいかない。
そして、
それを上の人に提案する。
そこで、
「このデザインは違うんじゃない?」
と言われる。
これは、
結構怖いです。
なぜなら、
単にデザインを否定されたように感じるだけではなく、
「自分がかっこいいと思ったもの」を否定されたように感じるからです。
100%客観なら、否定されても怖くない
例えば、
完全にデータだけで作った提案だったとします。
「市場調査の結果、こちらが最も売れると考えました」
という提案。
これが否定されても、
「なるほど、そういう考えもあるのか」
と比較的冷静に受け止められます。
でも、
「自分はこれが一番かっこいいと思います」
という提案を否定されると、
話が変わってくる。
それは、
自分の感性を否定されたように感じるからです。
だから、主観を消したくなる
そうなると、
「最初から主観なんて入れなければいい」
と思ってしまいます。
市場に合わせる。
過去の実績に合わせる。
上司が好きそうなものにする。
誰にも否定されない、
無難な提案をする。
確かに、
その方が傷つきません。
でも、
それでいいのかというと、
少し違う気もします。
主観があるから、提案が面白くなる
デザインに限らず、
良い提案には、
どこかに「その人らしさ」が入っていると思います。
「自分はこう思う」
「自分ならこうする」
「これが面白いと思う」
そういう主観があるからこそ、
他の人には出せない提案になります。
もちろん、
主観だけではダメです。
仕事なので、
会社として成立するのか。
ユーザーに価値があるのか。
実現できるのか。
そういった客観的な視点も必要です。
でも、
客観だけで作ったものは、
正しいかもしれないけれど、
面白くないこともあります。
主観を入れるなら、否定される覚悟も必要
だから最近は、
「主観を入れない」のではなく、
「主観を入れたなら、否定される覚悟を持つ」
くらいがいいのではないかと思っています。
自分が好きなものを、
「これがいいと思います」
と出してみる。
そして、
「いや、違う」
と言われたら、
一度受け止める。
それでも、
「いや、やっぱりこれがいいと思う」
のであれば、
理由を整理してもう一度提案する。
そこで粘る。
もちろん、
何でも自分の好みを押し通せばいいわけではありません。
会社として成立しない。
ユーザーに求められていない。
ブランドに合っていない。
そういうことなら、
主観を捨てる必要もあります。
でも、
客観的な条件をクリアした上で、
最後に二つの案で迷ったとき。
そこで、
「私はこっちの方がかっこいいと思う」
と言えることは、
デザイナーにとって、
意外と大切なのかもしれません。
仕事で、
自分の主観を完全になくすことは、
たぶんできません。
そして、
なくす必要もない。
ただ、
主観が入った瞬間、
その提案は少しだけ、
自分自身に近づきます。
だから怖い。
否定されたら、
自分まで否定されたように感じる。
でも、
それを恐れて、
最初から自分の感覚を全部消してしまったら、
「自分が提案する意味」も、
少しずつ薄くなってしまう気がします。
だから、
主観を入れる。
怖くても、
出してみる。
否定されたら、
考え直す。
それでも信じられるなら、
もう一度粘る。
「自分はこう思う」と言えること。
それは、
仕事をする上での弱さではなく、
むしろ一つの強さなのかもしれません。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉