国立新美術館で開催されている
「ブルガリ・カレイドス」展に行ってきました。
ブルガリといえば、鮮やかな色石を大胆に組み合わせた“地中海の光”のようなジュエリー。
今回の展示では、その色彩感覚がどれほど独創的で、どれほど大胆で、そしてどれほど緻密に計算されているのかが、改めて目に見える形で示されていました。
■ 色を“複数使う”ことの難しさ
デザインの仕事をしているとよくわかるのですが、
色を複数使ったデザインはとても難しいです。
1色なら、意思ははっきりする。
2色なら、調和か対比でまとめられる。
でも、それが3色、4色、5色…と増えるほど、デザインは一気に崩れやすくなる。
色相、明度、彩度のバランスが少しズレるだけで、途端に雑然としてしまう。
だからこそ、ブルガリのジュエリーを見ると、
「どうしてこんなに色を使っているのに、ひとつにまとまるの……?」
と、本当に不思議になるのです。
■ ブルガリの色彩は、混ざるのではなく“響き合っている”
展示を見ていると、
ブルガリの色使いは単にカラフルなのではなく、
色そのものが“旋律”として扱われているように感じました。
・エメラルドの深い緑
・サファイアの青
・アメシストの紫
・珊瑚の赤
・トルマリンのピンク
これらの色石が、互いを邪魔せず、むしろ引き立て合う。
まるで “異なる音色が合わさって曲になる” みたいに、
色が音楽になっている感覚。
ブルガリのデザインは、多色であるほど複雑なのに、
視界に入ると“ひとつの作品”として成立してしまう。
この“まとめ方の巧みさ”こそ、ブルガリの魔術だと思います。
■ 計算されたバランスで生まれる“カレイドス(万華鏡)”
展覧会のテーマになっている「カレイドス」は“万華鏡”を意味します。
光の角度が変わると、色石たちも違う表情を見せる。
ブルガリはこの“揺らぎ”をデザインとして取り込み、
ジュエリーをひとつの“動くアート”として見せているように感じました。
多色でありながら破綻しない理由は、
色の大小、配置、素材の光り方、石の透明度まで計算されているから。
色石の“鮮やかさ”だけでなく、“光の質”まで組み合わせているからこそ、
複雑な色彩が最終的には調和に転じるのでしょう。

■ 色はセンスではなく、“設計”で扱うもの
展示を見終わって強く感じたのは、
ブルガリの色彩感覚は「センス」ではなく
“設計された色彩”だということ。
多色を使いながらもまとまって見えるのは、
場当たりの感覚では決して生まれない。
色石をどう配置したら輝きが音楽のように響くのか。
どう組み合わせたら“カレイドス”の世界観を作れるのか。
一つひとつに、職人とデザイナーの緻密な計算が宿っている。
そのことを、展示を通して強く感じました。
■ 色の自由を“品よく”成立させるブランド
ブルガリのジュエリーは、色を足していくほど気品が増していきます。
普通は逆。
色が増えればノイズは増えるはずなのに、
ブルガリの場合はむしろ“完成形”に近づいていく。
これは、色の扱いがうまいブランドにしか出せない世界観です。
展示を見ていて、
「色はこんなに自由でいいんだ」
と背中を押されるような気持ちになりました。

それではまた明日──
SOWN 代表
片倉