はじめに
私は普段、会社でデザインの仕事をしています。
形を整え、色を選び、機能を考える。その一つひとつは、モノをより良くするための作業のように見えますが、長く取り組んでいると不思議な感覚にたどり着きます。
「デザインって、人間そのものにとても近いのではないか?」という感覚です。
プロダクトやグラフィックは、単なる“もの”のように見えて、実際には人間のあり方や関係性と深く響き合っています。
デザインを考えることは、人間を考えることと限りなく近い。
今日は、そのことを少し掘り下げてみたいと思います。
まずは見た目が大事
デザインを語るうえで避けられないのが「第一印象」です。
人が何かを見たときに、ほんの数秒で「好き」「嫌い」を判断する
──これは心理学でもよく知られていますが、デザインの世界でも全く同じです。
腕時計のデザインでよく言われるのが「文字板は時計の顔(フェイス)である」という表現です。
実際、時計の印象を決める最大の要素はこのフェイスデザインであり、針の太さや長さ、インデックスの質感、文字板の素材といったわずかな違いが、全体の印象を大きく変えてしまいます。
これは人間も同じです。
人は表情がほんの少し違うだけで、相手に与える印象が変わります。
笑顔なのか、少し疲れているのか、真剣なのか
──その表情の差が、相手に与える信頼感や安心感に直結します。
つまり、モノのデザインにおける「顔」と、人間の「表情」は驚くほど似ているのです。
人間とデザインの「表層」
面白いのは、表層が“ただの飾り”ではないという点です。
デザインの造形は、その商品の理念やコンセプトの最初の翻訳であり、人の見た目もまた、その人の価値観や生き方をにじませます。
つまり「見た目」は偶然の産物ではなく、その人・そのものを形づくる背景を反映しているのです。
共感できるかどうか
さらに深く考えると、人がモノを選ぶ理由、人が人を好きになる理由は、とても近しいものに思えます。
デザインの場合、その商品の世界観、ストーリー、あるいは触れたときの感覚に「共感」できるかどうかが購買の決め手になります。
人間関係も同じで、相手の価値観や言葉の響き、纏う空気感に共感できるかどうかが、関わりたい気持ちにつながります。
つまり「共感」は、人とモノ、人と人を結びつける共通の原理です。
私はこの共通性に気づくたび、デザインは単なる機能美や造形美ではなく、人間的な営みに限りなく近いものだと実感します。
デザインは鏡のような存在
デザインは人に寄り添うために生まれ、使う人の生き方を映し出します。
たとえばシンプルで静かなデザインに惹かれる人は、心のどこかで静けさや調和を求めているのかもしれません。
逆に、大胆で鮮やかなデザインを選ぶ人は、自分自身を解放したい、あるいは表現したいという欲望を投影しているのかもしれません。
そう考えると、デザインは“人間を映す鏡”でもあります。
モノを通じて、自分の内側を知る。
だからこそ、私たちはデザインに感情を動かされるのだと思います。
デザインは、人間と近い
デザインを考えることは、人間を理解すること。
人間を理解することは、より良いデザインを生み出すこと。
この二つは、まるで表と裏のように結びついています。
私がデザインを愛してやまないのは、そこに“人間らしさ”を感じるからです。
デザインは人間の分身であり、人間の願いや感性を映し出す存在。
だからデザインの探究は、結局のところ「人間とは何か」を探る営みでもあるのだと思います。
まとめ
見た目で心を掴み、内面で共感を呼ぶ。
人間とデザインは、驚くほど似た構造を持っています。
腕時計のフェイスが時計全体の印象を決めるように、人間の表情もまた、相手の心を左右する。
こうした「近さ」を意識すると、デザインはより人間的に、人間はよりデザイン的に見えてきます。
デザインを通して人間を考える。人間を通してデザインを考える。
その往復こそが、ものづくりの醍醐味であり、人生を豊かにする知恵なのかもしれません。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉