はじめに
大人気アニメ「推しの子」第2シーズンでは、作中劇として「東京ブレイド」という漫画を舞台化するストーリーが描かれます。
その中で登場するのが、漫画を舞台用に編集する脚本家。彼の葛藤は、現実世界で創作に関わるすべての人が直面する「クリエイターの苦悩」にとても近いと感じました。
今回はこのエピソードを通して、創作における葛藤と仕事における学びについて考えてみたいと思います。
原作者と脚本家の対立
脚本家は原作の「東京ブレイド」が大好きで、何度も読み込み、理解した上で舞台用の脚本を組み立てます。
しかし原作者は、その脚本を見て激しく否定します。
「こんな人のはやめた方がいい!」とまで言い切るシーンがあるのです。
ここで重要なのは、脚本家は悪意があって原作を改変したわけではないという点です。
むしろ、「いい作品にしたい」という純粋な思いで脚本を作っている。
にもかかわらず、自分の努力が真っ向から否定されてしまう。
これこそ、クリエイターが最も直面する辛さなのではないでしょうか。
脚本家の葛藤
その後、脚本家は外されそうになり、「いいものを創ろうと思っただけなのに……」と涙します。
このシーンを観て、私自身も胸が締め付けられる思いになりました。
おそらくデザイナーやライター、映像制作者など、ものを創る仕事をしている人であれば強く共感できる場面だと思います。
時間をかけ、知恵を絞り、必死で形にしたアウトプットを「違う」「ダメ」と言われてしまう。
その瞬間、努力や意図はなかなか相手に伝わらず、無力感に包まれる。
「推しの子」のこのシーンは、そんな現実を鋭く切り取っていました。
私自身の経験
私の本業はデザインですが、商品企画から下りてきたテーマを元に、上司とすり合わせながらデザインを進めていきます。
この段階で何度も確認し、方向性を一致させているつもりでも、いざ企画部署に提案すると「イメージと違う」と言われてしまうことがあります。
「ちゃんと話したのに、なぜ?」と思う反面、言葉や頭の中で描いているものと、実際に出力されたものにはどうしても差が生じてしまう。
それは仕事における宿命であり、どれだけ注意してもゼロにはできないものだと痛感しています。
分業制の本質
ここで大切なのは、「仕事は分業制である」という点だと思います。
創作もビジネスも、一人で完結することはほとんどなく、複数の人の考えや意見が入り混じる中で進んでいきます。
だからこそ、100%全員が納得するものはまず存在しない。
これは妥協という意味ではなく、むしろ自然なプロセスとして受け止める必要があるのだと思います。
お互いに意見をぶつけ合うのは、より良いものをつくるための過程であって、敵対行為ではないのです。
「敵はいない」という視点
「推しの子」のストーリーでは、最終的に原作者と脚本家が歩み寄り、最高の舞台を完成させます。
初めは敵対していた二人が、実は同じ目的──「いいものを創る」──を持っていたことに気づくからです。
これは日々の仕事でも同じだと思います。
反論してくる人も、否定してくる人も、決してあなたを潰したいわけではなく、より良いアウトプットを求めて意見している。
そう考えると、批判や対立に直面した時も「敵はいない」と思えるようになり、心持ちが大きく変わってきます。
まとめ
「推しの子」の脚本家の葛藤は、私たちが日々の仕事で直面する現実そのものです。
努力を否定される苦しさ。意見のすれ違い。行き場のない無力感。
けれど、その裏には必ず「いいものを創りたい」という共通の思いがある。
大事なのは、敵をつくらないこと。批判を受けたときも「みんな同じゴールを目指している」と理解すること。
その姿勢があれば、創作も仕事も、もっと前向きに取り組めるのではないかと思います。
それではまた明日──
SOWN 代表
片倉